スワップ取引に関連した法律・判例(企業・公益法人向け)

スワップ取引は、個人が購入することは少なく、 もっぱら、銀行、証券会社等より企業が購入するケースが多いものです。

平成17年(2005年)12月2日、公正取引委員会が
「株式会社A銀行は、自行と融資取引融資取引関係にある事業者であって、 その取引上の地位が自行に対して劣っているものに対して、 融資に係る手続を進める過程において、事業者との間で設定される想定元本 (金利計算のための計算上の元本。以下同じ。)を基礎として算定された 異なる種類の金利を契約期間において交換することを内容とする 金融派生商品(以下「金利スワップ」という。)の購入を提案し、 金利スワップを購入することが融資を行うことの条件である旨又は 金利スワップを購入しなければ融資に関して不利な取扱いをする旨を 明示又は示唆することにより金利スワップの購入を要請し、 金利スワップの購入を余儀なくさせる行為を取りやめなければならない。」等、 当該銀行が融資先である企業に対し、その優越的地位を濫用し、 スワップ取引を購入させたことに対し、その行為の取りやめ等を勧告したのに対し、 当該銀行が応諾したことから平成17年12月26日、同意審決となった例があります。

当該同意審決は、
 A銀行は、平成14年、借入れの大部分を同行から受けており、 定期的に生じる資金需要に係る融資を受けるために融資枠の更新を 申し込んだ事業者に対して、当該事業者における個別の借入れの 内容について十分に検討することなく、オーバーヘッジとなる金利スワップの購入を提案した。
A銀行は、当該事業者が、金利スワップを必要としておらず、 また、金利スワップに係る支払いによる金銭的負担も大きいと考え、 複数回にわたる金利スワップの購入提案に応じなかったにもかかわらず、 金利スワップを購入しなければ融資枠の更新に関して不利な取扱いを行う旨明示し、 担当者に管理職である上司を帯同させるなどして重ねて金利スワップの購入を要請した。
これにより、当該事業者は、融資枠の更新を受けるためには金利スワップを購入せざるを得ないと考え、 金利スワップを購入することを余儀なくされた。

 A銀行は、平成15年、借入総額の半分以上を同行から受けており、 運転資金の融資を申し込んだ事業者に対して、 当該事業者における個別の借入れの内容について十分に検討することなく、 オーバーヘッジとなる金利スワップの購入を提案した。
A銀行は、当該事業者が既に同行から金利スワップを購入しており、 新たな金利スワップを購入すれば融資に係る支払金利以外の金銭的負担が増加することとなり、 また、金利上昇リスクのヘッジを行う必要があるほど変動金利が上昇することは当面ないと考え、 複数回にわたる金利スワップの購入提案に応じなかったにもかかわらず、 担当者に管理職である上司を帯同させるなどして重ねて金利スワップの購入を要請することにより、 金利スワップの購入が融資を行うことの条件である旨示唆した。
これにより、当該事業者は、融資を受けるためには金利スワップを購入せざるを得ないと考え、 金利スワップを購入することを余儀なくされた。

 A銀行は、平成15年、借入れの相当額を同行から受けており、 支払手形の決済資金を手当てするために短期融資を申し込んだ事業者に対して、 支払手形の決済日までに他の金融機関から融資を受けることが困難である時期に、 当該事業者における個別の借入れの内容について十分に検討することなく、 オーバーヘッジとなる金利スワップの購入を提案した。
A銀行は、当該事業者が、 融資に係る支払金利以外の金銭的負担が増加することとなり、 また、金利上昇リスクのヘッジを行う必要があるほど変動金利が上昇することは当面ないと考え、 複数回にわたる金利スワップの購入提案に応じなかったにもかかわらず、 金利スワップを購入することが融資を行うことの条件であるように認識させる文書を提示し、 担当者に管理職である上司を帯同させるなどして重ねて金利スワップの購入を要請することにより、 金利スワップの購入が融資を行うことの条件である旨示唆した。
これにより、当該事業者は、融資を受けるためには金利スワップを購入せざるを得ないと考え、 金利スワップを購入することを余儀なくされた。

A銀行は、平成16年、借入れのすべてを同行から受けており、 設備資金等の手当てのために融資を申し込んだ事業者に対して、 当該事業者における個別の借入れの内容について十分に検討することなく、 当該融資を行う旨示唆した後、 当該事業者に既に販売していた金利スワップがオーバーヘッジとなっていたにもかかわらず、 新たな金利スワップの購入を提案した。
A銀行は、当該事業者が既に同行から金利スワップを購入しており、 新たな金利スワップを購入すれば金銭的負担が増加することとなり、 また、金利上昇リスクのヘッジを行う必要があるほど変動金利が上昇することは当面ないと考え、 複数回にわたる金利スワップの購入提案に応じなかったにもかかわらず、 融資実行日の前日に至るまで金利スワップを購入するよう重ねて要請することにより、 金利スワップの購入が融資を行うことの条件である旨示唆した。
これにより、当該事業者は、融資を受けるためには金利スワップを購入せざるを得ないと考え、 金利スワップを購入することを余儀なくされた。」
等の事実関係を認定しています。

また、東京地方裁判所平成21年3月31日(判例時報2060号102頁以下、金融法務事情1866号88頁以下)は、 被告である証券会社に対し、 通貨スワップ等の取引経験のあった企業である原告(2社)に対し 金利スワップを販売する際の説明義務違反を認めるとともに、 3分の2の過失を原告である企業に認め過失相殺しています。

この判決には、控訴がされており、まだ未確定のものです。 ただ、スワップ取引についても、判例雑誌に掲載されていない裁判例では 説明義務違反を求めた裁判例が多数ありますが(金融法務事情1866号91頁等)、 掲載されているものはほとんどないため、この裁判例を取り上げさせてもらいます。

(1) この裁判(以下「本件」といいます)は、被告(証券会社)との間で、 2つの金利スワップ取引を行った原告A(別会社Cの資金運用等を目的として設立され、 C社の被告に対する当該契約上の地位を承継した会社)及び原告B(バスの運行等を目的とする会社)が、まず、

第1に本件スワップ取引の錯誤無効 (さくごむこう:勘違いにより契約の効力がないとの主張)を理由として、 本件スワップ取引に基づく金利支払債務の不存在確認と、 原告が被告に支払った金利相当額と被告が原告に支払った金利相当額との差額金を不当利得として 原告Aが13億8886万1347円+年5%の利息を、原告Bが6億9442万9566円+年5%の利息を請求し、

この第1の請求が認められない場合には、予備的に、

第2として、 本件取引の締結に際して被告(その担当者であったD)の説明義務違反を理由として、 債務不履行又は不法行為に基づいて、原告らがYに対して、 本件スワップ取引終了時に支払った金員に相当する損害賠償、 具体的には、原告Aは16億6031万7411円+年5%の利息を、原告Bは8億3015万7596円を請求したものです。

(2) 原告らは、本件で問題となっている金利スワップ取引の前には金利スワップ取引を行ったことはありませんでしたが、 原告Aは遅くとも平成9年から通貨スワップ取引を開始し、その後、為替連動スワップ取引、 為替予約取引及び通貨オプション取引を行い、原告Bも平成10年から通貨スワップ取引を開始し、 その後も通貨オプション取引及び為替予約取引を行い、平成13年度から平成16年度にかけて、 原告Aは年間平均14億円以上、原告Bは年間平均8億円以上の利益を上げていました。
また、原告らが本件第1取引開始前の平成15年11月末ころからU証券会社との間で2回にわたって 行った米ドル短期金利連動型米ドル・円通貨スワップ取引の内容は、 原告らの受取金額は100万円で固定されているものの、 原告らの支払金額は6か月物米ドルLIBORによって変動する内容となっていました。
さらに、原告らは、本件各取引締結後である平成17年6月以降は投資顧問契約を締結した R株式会社のアドバイスを受けながら、株価連動オプション取引、 株価指数先物取引及び為替先渡取引等のデリバティブ取引を行っています。

(3) 本件で問題となった2つの金利スワップ取引は
  ア 第1取引
   (ア) 想定元本  原告Aにつき5000万米ドル、原告Bにつき2500万米ドル
   (イ) 取引期間  平成16年6月18日から平成26年6月18日まで
   (ウ) 原告らが被告から受け取る金利
当初1年間が10.5%、残り9年間が各金利計算開始日の2営業日前の ニューヨーク時間午前11時にロイターISDAFIX3において設定される 10年物ドル・ドルスワップレート(以下10年物金利)という。)と 2年物ドル・ドルスワップレート(以下「2年物金利」という。)の差の4倍(ただし、0%を下限とする。)
   (エ) 原告らが被告に支払う利息
各金利計算開始日の2ロンドン営業日前にテレレート3750頁において 設定される3か月物米ドルLIBOR(以下「3か月もの米ドルLIBOR」という。 ただし、初回に限り、平成16年6月15日に設定された3か月物米ドルLIBOR(1.56パーセント)が適用される。)
  イ 第2取引
   (ア) 想定元本 原告Aにつき5000万米ドル、原告Bにつき2500万ドル
   (イ) 取引期間 平成16年11月30日から平成26年12月18日まで
   (ウ) 原告らが被告から受け取る金利
            3か月物米ドルLIBOR
   (エ) 原告らが被告に支払う利息
平成17年9月まで2.00パーセント、平成18年9月まで3.00パーセント、 平成19年9月まで4.00パーセント、平成20年9月まで4.80パーセント、 残り5年3か月間5.00パーセント
という内容のものでした。

(4) 本件第1取引締結後、連邦公開市場委員会において金利の引き上げが決定されるなどしたことから 3か月物米ドルLIBORが上昇し始め、原告らの支払い金利の金額が増えました。
そこで、原告らの支払金利を3か月物米ドルLIBORではなく固定金利に変更し、 支払金利がさらに上昇するリスクを排除するための第2取引が締結されました。
しかし、その後も過去10年間の金利変動では見られなかった短期金利の利率が長期金利の利率を上回る 逆イールド現象が生じるなどしたことから、被告は、平成19年5月18日、本件訴訟を提起し、 同年6月18日に支払うべき金利の支払いを拒絶したことから、本件スワップ取引は解約され、 預託証拠金より、中途解約金が控除されました。

(5) この請求に対し、裁判所は、まず、第1の錯誤無効(さくごむこう:勘違いにより契約の効力がないとの主張)については、
「原告らは、原告らがDの虚偽の説明により本件第1取引の時価評価額の最大リスクを マイナス12パーセント程度と誤信したものであるから、 本件第1取引は錯誤により無効であると主張する。」とした上で、
「本件第1取引の仕組みや契約内容については、 原告らにおいてもこれを認識し了解した上で本件第1取引の締結に至った」として
原告らの錯誤の主張については、認めませんでした。
その上で、第2の説明義務違反の主張については、
原告らに対して、被告社員Dが説明書に基づく説明とシミュレーション表を交付していたとしても、
当該シミュレーション表における前提条件や、それが満たされない場合にどの程度の時価評価損が 発生する可能性があるかについての明確な言及がないなどの点で、 当該取引に関わる金利感応度分析表と対比して不十分なものというほかない以上、 その担当者が当該分析表の交付ないしこれに基づく説明を行うことなく、 原告らとの当該取引の締結に至った点については、被告の原告らに対する説明義務に違反するものと評価せざるを得ない
とした上で、
「本件第1取引による損害の発生については原告らにも相当の過失があったといわざるを得ないところ、」
「その過失割合は原告ら2、被告が1と認めるのが相当である」
として、原告Aの請求のうち4億6295万3782円を、原告Bの請求の内2億3147万6521円を認めました。

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